2017年4月15日土曜日

ヘイドン・ホワイト 『歴史の喩法』

ヘイドン・ホワイトの新たな日本語訳が刊行されます。

ヘイドン・ホワイト 『歴史の喩法-ホワイト主要論文集成』 上村忠男編訳、作品社、2017年4月20日発行。

訳者の上村忠男さんが、ホワイトの全体像を示すため、独自に編纂された主要論文集ということで、ひとまず巻末の「編訳者による解題」と上村氏の論文「ヘイドン・ホワイトと歴史の喩法」を一読しました。

トロポロジカル(喩法論的)な光学のもとでホワイトが思考してきた「表象の歴史学」にとり、1990年のUCLAで開かれた会議「〈最終解決〉と表象の限界」がひときわ重大な事件として出来した点、また、この会議を開催するそもそものきっかけとなったのが、前年の89年に「歴史、事件、言述」をめぐってホワイトとギンズブルグのあいだで交わされた論争であった点など、問いを基礎づける論議の経緯が、ここでまず紹介されます。

当時の上村氏もこれをうけ、編訳論集『アウシュヴィッツと表象の限界』(未來社)を94年に刊行し、翌95年の『ショアー』日本上映にさいしては、多木浩二氏との対談「歴史と証言」を行っています。同じ年に多木氏が示した「方法としての退行」という発想の射程を、上村氏が独自に広げながら省察を深めていく箇所に、わたしは強い印象をおぼえました。
 表象の可能性と不可能性のとば口で文字どおり表象の限界を画すほかない事件が、西アフリカの近現代にもいたるところで暗闇のまま埋もれつづけていることはいうまでもありません。おととし琉大で開催された日本平和学会の分科会で、阿部小涼さんがクルギとの関連で言及されていた「見えないアーカイヴ」の修辞も、あらためていま、想起されてきます。

2017年4月12日水曜日

『スポートロジイ』第4号

稲垣正浩先生が主幹として編集されてきた
21世紀スポーツ文化研究所の
『スポートロジイ』最新号が、このたび発刊されます。

『スポートロジイ』第4号、2017年4月15日発行。

本号には、昨年2月6日に急逝された稲垣先生を追悼するという格別の志が込められています。

「稲垣先生が私たちに残された「有為の奥山の向こうを見据えた思想」には、人間の「死」を見据えた広大で深遠なスポーツへのまなざしが含まれます。そうした境地にあってこそ、人は「と共に在る」といえると思います[…] それを見据えて研究することはなかなか大変なことで、大きな宿題をもらったとも思うのですが、それを見据えることを忘れずにいさえすれば、私たちが稲垣先生「と共に在る」ことができるのではと夢想しています」
  (井上邦子「「有為の奥山の向こう」を見据えた思想」
                        [本号所収]より)

稲垣先生を中心とした下記シンポジウム、講演会の記録も掲載していただけたため、当日の自分のおぼつかない発言内容をできるだけまともな形に整えることができました。稲垣先生と、時を場をご一緒できたその記録をこのように残していただけることを、光栄に感じております。

特集Ⅱ 〈破局〉に向き合う、いま、スポーツについて考える
        稲垣正浩・中山智香子・橋本一径・真島一郎・小野純一・嘉戸一将・西谷修

特集Ⅲ 演出、あるいは人間的生存の基底- ピエール・ルジャンドルのダンス論から
        司会: 稲垣正浩 講演・応答: 森元庸介
        コメンテーター: 西谷修・小野純一・加藤範子・真島一郎

2017年4月8日土曜日

原初的叛乱者たちの系譜2017

collection privée
今年度の春学期も
今福龍太さんたちと交代で運営していく
リレー講義を、
例年どおりの時間帯と教室で開きます。

「原初的叛乱者たちの系譜 2017」

水曜日6限
109教室

わたしは次週12日から5月3日まで、 下の内容で今年も全力投球です。

どれだけ突飛にみえようが、
サモリ・トゥーレも
トマ・サンカラも、
そしてもちろんクルギも、すべて思考と想像の射程に入れた叛乱論です。

 


2017年4月7日金曜日

春学期2017


à Nouméa (mars 2017, i. majima)
今週からはじまった新年度春学期は、下記のとおり、おおむね昨年度各講義のテーマを継続させた内容で臨む予定です。
ゼミ生の方々が今年も授業外の読書会開催を希望する場合には、フランクフルト学派関連の尖った文献などをお勧めしようかと考えています。

月4 M演習 グレーバー『負債論』
月5 D演習 バタイユ読解Ⅱ
   『呪われた部分:普遍経済論の試み』の
 第2巻『エロティシズムの歴史』、および
 サブテクストとしてフロイト「集団心理学と自我の分析」「トーテムとタブー」を精読したのち、同第3巻『至高性』に進む。 

火3 学部講義   「共同体」論
火4 学部3年ゼミ
火5 卒論ゼミ

水2 修論ゼミ
水3 リレー講義   「世界と出版文化」(初回講義&運営担当)
水6 リレー講義   「原初的叛乱者たちの系譜2017」(4月12日から連続4週を担当)

2017年4月6日木曜日

リレー講義 「世界と出版文化」

collection privée@majima
例年、東京外国語大学出版会が企画してきたリレー講義「日本の出版文化」が、今年から講義名を「世界と出版文化」(水曜3限/春学期)に変更し、パワーアップして始動します。昨日の初回には約150名の受講者がありました。
書籍編集、書店、図書館、ネットメディア、装幀といった領域でそれぞれ第一線のプロフェッショナルとして活躍されてきた方々も学外から講師にお招きし、出版文化の現在と未来をともに考えていきます。今年度は、いまのところ下記の内容(敬称略)を予定しています。

2017年度 リレー講義 「世界と出版文化」

01 04/05 真島一郎(本学)
  「世界と出版文化」
02 04/12 佐野 洋(本学)
  「日本語と出版技術-木簡からEPUBまで」
03 04/19 小林 浩(編集者/月曜社取締役)
  「人文系零細出版社の理想と現実」
04 04/26 井上一夫(編集者/元岩波書店取締役)
  「「知識の本」と「知恵の本」~岩波新書の編集作法」

05 05/10 伊東剛史(本学) 「イギリスの出版文化: 挿絵入り雑誌の歴史的意義」
06 05/17 星 泉(本学)    「小さな文学の闘い方: チベットの出版事情と作家たち」
07 05/24 今福龍太(本学) 「本の自叙伝」
08 05/31 十河 宏(編集者/紀伊國屋書店取締役) 
                   「書店と出版文化-特に海外での事例について」
09 06/07 日下九八(ウィキペディア編集者/ OpenGLAM Japan)
                   「出版という営み-文化のなかに、ウィキペディアを位置づける」
10 06/14 茂出木理子(東京工業大学 情報図書館課長) 「図書館と書物」
11 06/21 野平宗弘(本学) 「ベトナムの出版事情と作家たち」
12 06/28 桂川 潤(本学)  「造本装丁と本づくり」
13 07/05 橋本雄一(本学) 「戦争と出版 ~中国大陸から~」 

【授業の目標
この授業は、東京外国語大学出版会がコーディネイトしている授業です。目的は次の三つです。
1. 普段は完成態の本としか接点のない出版文化を、多様な視点から捉えることで、その全体像を獲得する。
2. 世界の出版文化の帰趨を、人文学そのものの運命に関わる問題として考えさせる。
3. とにかく本を好きになってもらう。
たんに出版文化についての知識を増やすだけでなく、真剣にひとつのキャリアの形として編集と出版について考えることで、キャリア形成についての明確な目的意識を持つことができるということが、到達目標であるということもできるでしょう。 
 【授業の概要
本学出版会の編集部や著者はもちろん、編集者、ブックデザイナー、書店のカリスマ店員、小出版の起業家など、第一線で活躍中の方々のリレー講義で進めます。 
【キーワード
人文学、新自由主義批判、知識人、読書共同体、出版文化、電子書籍。 
【授業の計画
大学と出版/知の活用法/戦後思想と人文書出版/書店から見た人文書/出版文化史/文学と出版/読書論/書物論/編集論/対抗的出版論などといった出版文化に関わる多様なトピックを取り上げます。

2017年4月2日日曜日

闇と声

東京外国語大学出版会の広報誌『ピエリア』最新号
(2017年春号)が、発行されました。

今年は、 「見えないものにふれる」というテーマで、特集が組まれています。

わたしは、「闇と声」と題する小文を書いてみました。

最後の一文は、1913年1月のカフカのフェリーツェ宛書翰にある警句のような表現が、以前から心のどこかに引っかかっていたせいで、ふいに訪れたのかもしれません。ドゥルーズのカフカ論で出逢った一句なので、次のフランス語訳でしか知りませんが。
« La nuit n'est pas assez nocturne...»  闇と声

出版会編集長としての短文も、あわせて巻末に記しました。 見えない読者とふれるために