2019年3月12日火曜日

『混沌の共和国』

美学芸術学/アフリカ近代美術史を専門領域とされる
柳沢史明さんが、フランス第三共和政/植民地史を斬新な視点から再考する共編著を、このほど発表されました。

柳沢史明・吉澤英樹・江島泰子(編)
『混沌の共和国-「文明化の使命」の時代における渡世のディスクール』ナカニシヤ出版、2019年2月28日発行。

[…]共和国理念の及ばぬ「植民地」での共和国とカトリックとの協力体制は[…]ライシテ関連法案推進者の代表でもあったフェリーの努力の賜物であったという事実は、まさに植民地事業において政教が分離せずに、また完全な合致というわけでもない、付かず離れずの関係にあったことを示している。「野蛮」な非西洋を「文明化」するという口実のもとに進められる植民地化こそ、世俗化する西洋社会における政教の相克を一時的に中和しうる同時代的関心事にほかならず[…]たとえ共和派が宣教師の営為を「文明化」として認識しようとしなかったとしても、後者の側は、一種の「渡世」の言説として自らの営為をフランスによる植民地の「文明化」という文脈へと接合させていたと考えることは可能であろう。

[…]宣教師と同様に、近代国家形成にあたっての政教分離や植民地主義の高まり、共和国的理念や人種主義的観念の形成など、さまざまな政治的・思想的な諸要素の布置のなかで、自らの存在価値と第三共和政期の諸潮流との「整合性」を探り、巧みに自らの利害と立場を確保する人びとの思想や作品に注目するならば、彼らの思慮深くかつ抜け目ない「渡世」の言説がみえてくるだろうし、それを通じてこの時代の思想、文化、表現を再考することができるのではないだろうか。こうした関心のもと、本書は企画された」   (いずれも本書所収の、柳沢史明「「文明化の使命」の時代とその文化-序にかえて」より)

論集は三部構成で、ライシテや人種理論、ユダヤ系フランス人にかんする論考を集めた第一部「第三共和政成立期における宗教と人種」のあとには、第二部「植民地」文学」と「ルポルタージュ」」、第三部「宣教師たちのみた植民地アフリカ」がつづくなど、きわめて多彩な観点からなる論集です。