2021年5月5日水曜日

群蝶論

 物を考える時間がつかのまとれた連休中、俊英の手になるみごとな論考に出遭いました。今学期金曜3限の博士演習に参加されている黒沢さんの作品です。

黒沢祐人 2021「群蝶化するゴゼイ/ゴゼイ化する群蝶-目取真俊「群蝶の木」における〈群生〉する身体と変形」『社会文学』53:160-173. 

 「[…]身体部位の接触を矢継ぎ早につなぎ合わせることで、あくまでも人称的な帰属を不明確なままにしながらゴゼイの身体感覚を探る語り[…]ゴゼイの預かり知らぬところで、その〈声〉は義明の生に浸透し[…]「群蝶の木」では、このような、いわば出会いのない出会いとでもいうべき特異な交流が、物語の展開において重要な鍵になっていた[…]同じ場にいながらも決して重なりあうことのない内面世界を生きるもの同士の実践が輻輳化する事態を語る物語[…]ゴゼイの自己実践と義明の行動は、相互理解可能な同一の地平に生じるものではない。だが、明らかに互いの生に浸透している。「出会いのない出会い」とは、このように互いの実践が、あくまでも別々の実践として、しかし時にはその実践を可能とする前提を与え合うというような、共通の目的をもたない偶然の協働を可能にする交錯の謂であった」(pp.164-168)