2024年6月13日木曜日

石の声は聴こえるか

数年前にシンポジウムでご一緒させていただいた小説家の崎山多美さんがこのほど新たな評論・エッセイ集を刊行されました。

崎山多美『石の声は聴こえるか』花書院、2024年5月15日発行。

 

「水と闇、というつかみどころのない茫洋たる存在が、シマの記憶を誘う契機として切り離しがたくある、と気付かされたのは、じつは小説を書くことを意識しだしたころだった。私が、書く、という表現行為に生きるよりどころを求め、その書くためのよりどころが、生まれ落ちて十四年間を過ごしたあのシマの生活で私の身体を四六時中満たしていた水と闇をふりかえることにあった、ということ。[…]ここずっと、石の佇まいが気になってしかたがない。[…]私は、石の声を聴きたいと願っている。なぜひとびとは、石や岩という硬質な自然物に命の物語を託すのか。[…]失われてしまった命を想うこと。膨大な視えない命の層の一点に、己が在ることへの不可思議さ。この世もあの世もなく浮遊する魂を想像すること。この声を聴くために耳を澄ませること……。塊になって地表にへばりつく石は、なにを語ろうとしているのか。ヒトは、その声を聴くことができるのかー。」(表題エッセイより)