2019年5月14日火曜日

太田至・曽我亨 編『遊牧の思想』

アフリカの牧畜社会をフィールドとする人類学者が、新たに重要な論集を刊行しました。

太田至・曽我亨 編『遊牧の思想-人類学がみる激動のアフリカ』昭和堂、2019年3月30日発行。

「アフリカの遊牧民に魅せられた人類学者によるアンソロジー。彼らに惹かれる最大の理由は、その「ブレない生き方」。現在をさまざまな困難に直面する私たちにとって、同じように激動の時代を生きる遊牧民の思想は、どんな意味をもつのか。読者とともに考えたい」(本書表紙裏リード文)

若手研究者と並んで寄稿した本書の主要執筆陣は、これはという圧巻の顔ぶれ。今日のアフリカに生じた激動を目の前の現実として着実に捉えようとする基本姿勢もさることながら、状況に正対する牧畜民の「ブレなさ」こそ、本書から学びうる重要な思想の核となるはずです。たとえばそれは、伊谷純一郎や本書共編者・太田さんの論考により80年代から注目されてきたベッギングの社会性が、今の私たちになおも問いつづける思想として。

「[…]牧畜民の社会の文化、価値観は、基本的に農耕民である日本人のものとは、ある意味では対極にあり、非常にわかりにくい。彼らの自己肯定的で確信に満ちた生き方の秘密はどこにあるのだろうか[…]牧畜民は目の前の相手としっかり向き合う人たちである。相手の言うことに耳を傾け、自分にできること、できないことをはっきりと告げる。もちろん、「物乞い」をもちこまれた相手が、いつも要望に応えられるわけではない。重要なことは、牧畜民が困っている相手に、しっかり向き合い、解決できるならば要望に応えようとすることだ」        (本書序章「遊牧の思想とは何か」より)