2025年12月19日金曜日

生を見つめる翻訳

 

 

日本語による翻訳150年の営みを望見する論集『生を見つめる翻訳』が、この年の瀬にいたりようやく刊行の運びとなりました。多くのみなさまのお力に支えられ、それぞれの生の深部、世界の深部が揺らめき出でるような、真に味読に値する一書が形になったのではないかと感じております。これまで編集委員のあいだでは、相当の時間をかけて企画の話しあいを重ねてまいりました。私は全体の編集作業に加え、下記3つの重要なインタビュー記録にたずさわる機会もいただきました。寄稿者のみなさまには、この場を借りまして心より御礼申しあげます。

久野量一・千葉敏之・真島一郎 編『生を見つめる翻訳-世界の深部をひらいた150年』東京外国語大学出版会、2025年12月24日発行。

目次:

[インタビュー] 思想にとっての翻訳
 異界の言葉を伝えるヘルメス ― 西谷修に聞く 西谷修×真島一郎

[Ⅰ] 世界の〈場所〉をひらく文芸翻訳
文学の根を問う
 「黒人文学」から「アフリカン・アメリカン文学」へ、そしてそれから。 荒このみ
  Man is a Cause ― パレスチナとともに生きる 岡真理
  多言語的空間、「東欧」文学と翻訳 阿部賢一

翻訳者は闘う
 人々の経験と記憶を丁寧にたどる ― チベット文学の翻訳 星泉
 プラムディヤ・アナンタ・トゥールを翻訳する 押川典昭
 全羅道方言と格闘した七年間 筒井真樹子
 『世界革命文学選』の刊行とその時代 今井昭夫

作家に生を重ねる
 自由と流通 ― アレクシエーヴィチ作品の翻訳をめぐって 沼野恭子
 J・M・クッツェー翻訳の長い旅 くぼたのぞみ
 児童文学翻訳者への道と翻訳児童文学の今 宇野和美
 クンデラ作品の翻訳 西永良成
 牛のいる壁を開く ― 岩崎力と翻訳の「呪文」 荒原邦博

[インタビュー] ラテンアメリカ文学の地熱
 濃密なる文芸空間 ― 野谷文昭に聞く  野谷文昭×久野量一

[Ⅱ] 発端の光景 ――近代化と戦争
西洋をたわめる
 中江兆民「政治的の産婆」としての『民約訳解』
  ― 最近の挑発的な研究にことよせて 大川正彦
 社会の「科学的」な解明へ?
  ― モールス口述、石川千代松筆記『動物進化論』 春名展生
 「伊曾保物語」と新村出 吉田ゆり子

翻訳の機構
 近代国家の心得 ― 畢酒林氏説、西周助訳述『万国公法』春名展生
 『異国叢書』(イエズス会日本通信と日本年報)と村上直次郎 吉田ゆり子

アナーキズムの言語
 大杉栄 ― 言語ということを一人で横断した人 橋本雄一
 平野威馬雄の訳業 野平宗弘

情況への目線
 露国・拉里阿諾布著『一島未来記』と露語科の小島泰次郎 巽由樹子
 ブハーリン、スターリン『支那革命の現段階』ほかの翻訳と蔵原惟人 倉田明子
 下位春吉、日本とイタリアのファシズムと鵺のような戦後 小田原琳
 東京外国語学校「支那語部」をめぐる翻訳事情 加藤晴子
 南米日系移民と翻訳 高木佳奈
 志水速雄訳『人間の条件』
  ― ハンナ・アーレントの翻訳をめぐる一つの事情 岩崎稔

[インタビュー] 《Nuevo Mundo》の二〇世紀
 人間の生を問う力の源泉 ― 太田昌囯に聞く 太田昌囯×久野量一×真島一郎

[Ⅲ] 原典との対峙、世界の精読
古典を訳し継ぐ
 河島英昭の未完の『神曲』翻訳 ― 先生とぼくをめぐって 原基晶
 枯れた風趣をそのままに ― 前嶋信次と『アラビアン・ナイト』 後藤絵美
 インド刻文学と辛島昇 太田信宏

事件としての叢書
 「大航海時代叢書」の誕生 高橋均
 「大航海時代叢書」のなかのポルトガル語文献 鈴木茂

並走する知性
 運動体としてのマルク・ブロック、人を結ぶ二宮宏之 千葉敏之
 異なる文化の仲介者
  ― レヴィ= ストロース『悲しき熱帯』と川田順造の訳業 舛方周一郎
 知的好奇心が競演するテキスト
  ― 家島彦一とイブン・バットゥータの『大旅行記』 熊倉和歌子

[インタビュー] 思想にとっての翻訳
 オートディダクトの研究手帖 ― 上村忠男に聞く  上村忠男×真島一郎

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