2015年1月20日火曜日

幻の山口エノケン論 刊行!

論集『山口昌男 人類学的思考の沃野』で編者をつとめてくださった川村伸秀さんが、
編集者としてのたいへんな力技を未定稿に揮われた成果として、このほどついに幻の山口昌男・エノケン論が上梓されました。

山口昌男 『エノケンと菊谷栄-昭和精神史の匿れた水脈』 晶文社、2015年1月20日。

「日本の喜劇王エノケンとその座付作者・菊谷栄が、二人三脚で切り開いた浅草レヴューの世界を、知られざる資料と証言で描いた書き下ろし評伝。本稿の存在は、これまでも山口昌男の熱狂的な読者の間で知られていた。80年代に執筆されたが中断、その後も原稿に何度か手が入れられたものの、ついに完成をみることはなかった。本書は、先年亡くなった著者の遺志を継いで、その“幻の遺稿”を整理・編集し、刊行するものである」 (本書カバー見返し・紹介文より)

山口エノケン論の元々の企画編集者だった間宮幹彦氏(当時・筑摩書房)による「編集後記その一」、そして当の川村さんによる「編集後記その二」には、山口昌男という知の運動体をとりまく当時の事情がじつに鮮やかに描かれています。

「山口昌男の仕事は、『「挫折」の昭和史』から突然に日本の近代精神史へと強い関心を示し、扱う対象が大きく変わっていったことはよく知られている[…]ところが、『「挫折」の昭和史』とそれ以前の仕事の間に本書を置いてみると、すんなりと納得がいくのである[…]その意味では、未完のまま眠っていた本書は、山口人類学のミッシングリンクであると言うことができよう」 (川村伸秀 「編集後記その二」より)

全編匂い立つような浅草昭和モダニズムの残映、そして近代日本の稀代の道化役者エノケンをとりまく群像模様。山口昌男読みにとっては、たいへんな一書が日の目を見ました。

川村さんならではの、巻末収録「菊谷栄所蔵ジャズレコード一覧」(!)のおかげで、
読み手の耳には、キュンとくるBGMさえ流れてきます。
昭和40年代の横浜元町で耳にした音の微かな記憶……これは時代も何も違う余計な話です。