2015年5月10日日曜日

上村忠男 『回想の1960年代』

歴史学者・思想家の上村忠男先生が、新著を刊行されました。

上村忠男
  『回想の1960年代』ぷねうま社、2015年4月23日


ご自身の若き日々とこの国における政治の季節とが鋭く交差した著者の1960年代が、如何ほどの強度をおびてグラムシの思考との格闘に向けられていたかという経緯の委細を、読み手にあらためて差し出し、現在の世界性を深く再考させる一書として受けとめました。

以前御恵送に与った『グラムシ 獄舎の思想』との関連もさることながら、グラムシ『新編 現代の君主』の翻訳作業前後にまつわる時代の刻印が、行文から鮮明に浮かびあがってきます。そうした作品にふれたのは、ちょうど私がウフエ=ボワニを核としたコートディヴォワールの統治テクノロジーについて再考していた折のことでした。目前の主題をまえに、上村グラムシ論がどれほど参考になったかを想起するにつけ、冷戦下日本の60年代と独立直後コートディヴォワールの60年代とが二重写しで迫ってくるような思いもしています。

著作のタイトルには「回想」と銘打たれていますが、
むしろ本書は、テクストの書き手が(国内外の)他者の思考と格闘するプロセスを
あくまで社会理論の水脈としてびっしりと書き連ねていく点で、
一般にイメージされるような「回想録」のジャンルをこえた、破格の理論書として捉える作業が要請されているように思います。過去と現在の懸隔より、むしろある事態の継続こそを読み手として感知できたのは、城塚登や谷嶋喬四郎の講義を学部時代に受講した最後の世代のひとりだから、という因縁によるものだけではないように感じました。