2025年2月28日金曜日

国境廃絶論

外大同僚の梁英聖さんが、たいへん重要な一書を共訳にて公刊されました。

グレイシ・メイ・ブラッドリー&ルーク・デ・ノローニャ著『国境廃絶論ー入管化する社会と希望の方法』[梁英聖・柏崎正憲訳]岩波書店、2025年1月21日発行。 

「[…]本書が批判するシティズンシップ闘争が欧米諸国の市民社会で勝ち取った反レイシズム規範も、それが国家に制定させた公的な反レイシズム法制や政策も、日本にはそれらさえ存在しないということ[…]二重国籍容認も非市民の地方参政権容認も差別禁止法・多文化主義政策もない日本社会で、欧米的な反レイシズムの限界を国境廃絶によって批判しようとする本書の議論を、どのようにして役立てたらよいのか[…]問題は規範よりも廃絶の次元である。二〇世紀に反レイシズム闘争が規範の一定の成立や国家の法律・政策の制定を実現する一方で、国境、監獄、警察のようなレイシズムのシステム廃絶には至らなかったという積み残した人類の課題を、本書の国境廃絶論は根本からやり直すよう迫っている。そのような廃絶闘争の過程のなかで、反レイシズム規範も、レイシズムという概念も、刷新と再生を余儀なくされることだろう[…]二〇世紀的な国民国家や欧米的な反レイシズム規範に頼るのではなく、一九世紀的な廃絶民主主義に学び、私たちはシステム廃絶の反レイシズムを新たに創出しなければならないのであろう。日本という多くの困難を抱えた地において、本書はこの普遍的課題に取り組むための大きな手がかりとなるはずだ」(本書「日本の読者のための解題」より)

2025年2月14日金曜日

現実化しえないもの


上村忠男氏による最新の訳書が刊行されました。

ジョルジョ・アガンベン『現実化しえないもの ー 存在論の政治に向けて』[上村忠男訳]みすず書房、2025年2月17日発行

[…]哲学は完全に現実的なもので、そのかぎりで現実化できない可能性である[…]可能的なものと現実的なもの、本質と現実存在を区別すること[…]アリストテレスに始まる「可能態(デュナミス)から現実態(エネルゲイア)へ」という存在論の長い系譜学、および哲学と政治における分節化の過程[…]西洋文明のパワーの源は、この「存在論的マシーン」の中に在った。だが不断の現実化は、現実の根底的な否定でもある[…](本書裏表紙紹介文より)

2025年2月1日土曜日

すれ違う こすれ合う

 

猪瀬浩平さんの生と思考をとりあげた番組が、Eテレ『こころの時代』で次週放映予定です。       昨夏の外房合宿でゼミ生のみなさんと考えた見沼田んぼ福祉農園のいまをあらためて見つめようと思います。猪瀬さん、大恩寺のさやねえを通じたご一報ありがとうございました。

NHK Eテレ『こころの時代~宗教・人生~』 

2025年2月9日(日)午前5時~6時

 「すれ違う こすれ合う」

 「わからない他者」とどう生きるか?文化人類学者の猪瀬浩平さんが、埼玉県の農園で知的障害のある兄や多様な背景をもつ人々と「こすれ合い」気づいた希望。


 文化人類学者の猪瀬浩平さんにとって知的障害がある兄・良太さんは、自分の価値観を揺さぶり、見つめ直させ視野を広げてくれる存在だ。兄と共に20年以上通い続けるのがさいたま市緑区の「見沼田んぼ福祉農園」。猪瀬さんはここで、自分と兄だけではない多様な背景をもつ人々が交わり生み出すものの可能性を感じてきた。人と人が、すれ違うだけではなく、時に心をざわつかせるような摩擦を生みながらも触れ合うことの大切さとは。

 https://www.nhk.jp/p/ts/X83KJR6973/episode/te/RMVZZ51XQG/