外大同僚の梁英聖さんが、たいへん重要な一書を共訳にて公刊されました。
グレイシ・メイ・ブラッドリー&ルーク・デ・ノローニャ著『国境廃絶論ー入管化する社会と希望の方法』[梁英聖・柏崎正憲訳]岩波書店、2025年1月21日発行。
「[…]本書が批判するシティズンシップ闘争が欧米諸国の市民社会で勝ち取った反レイシズム規範も、それが国家に制定させた公的な反レイシズム法制や政策も、日本にはそれらさえ存在しないということ[…]二重国籍容認も非市民の地方参政権容認も差別禁止法・多文化主義政策もない日本社会で、欧米的な反レイシズムの限界を国境廃絶によって批判しようとする本書の議論を、どのようにして役立てたらよいのか[…]問題は規範よりも廃絶の次元である。二〇世紀に反レイシズム闘争が規範の一定の成立や国家の法律・政策の制定を実現する一方で、国境、監獄、警察のようなレイシズムのシステム廃絶には至らなかったという積み残した人類の課題を、本書の国境廃絶論は根本からやり直すよう迫っている。そのような廃絶闘争の過程のなかで、反レイシズム規範も、レイシズムという概念も、刷新と再生を余儀なくされることだろう[…]二〇世紀的な国民国家や欧米的な反レイシズム規範に頼るのではなく、一九世紀的な廃絶民主主義に学び、私たちはシステム廃絶の反レイシズムを新たに創出しなければならないのであろう。日本という多くの困難を抱えた地において、本書はこの普遍的課題に取り組むための大きな手がかりとなるはずだ」(本書「日本の読者のための解題」より)