2014年7月11日金曜日

粟飯原文子さんの仕事 - 『崩れゆく絆』/『褐色の世界史』




20世紀アフリカ文学不朽の傑作、
チヌア・アチェベの『崩れゆく絆』の新訳(光文社古典新訳文庫)を昨年発表された
粟飯原文子(あいはら・あやこ)さんに、先週、思いがけない場所で初めてお逢いしました。

早川書房の『黒人文学全集』を片っ端から読みあさっていた世代にはおなじみの
古川博巳氏による日本語初訳(門土社)からじつに36年ぶりの快挙であるばかりか、
訳注もふくめ、細心の配慮とともに粟飯原さんが達成された訳業です。

原書がおびる文学的想像力の誠実な伝達と、訳書の読み手にむけて添えねばならない訳注との
バランスは、アフリカ文学の日本語翻訳者がなかば宿命的に対峙せざるをえない困難のひとつです。
その困難をこえたときに、おそらく読み手は、過去のアフリカの姿とともに、
「今ここ」の物語を受けとることになるはずです。すくなくともそうであってほしいと私は願っています。
『崩れゆく絆』にひそむ「今ここ」の問題とは、だとすればなにか。ぜひご一読ください。

粟飯原さんが同じく昨年発表されたもうひとつの訳書は、
ヴィジャイ・プラシャド著 『褐色の世界史-第三世界とはなにか』(水声社)です。
第三世界の問題を再考するうえで、
依然として「ふたつのナショナリズム」のような
規範の境界線にたよって物事を説明しなければならない方法に、
私はかねて限界を感じてきました。
つねに二価的たらざるをえないその不安定さのなかでこそ、
社会的なものの「力」を文字どおり「力強く」考えていかねばならないとも
感じてきました。おそらくこうした問題意識にとって、
『褐色の世界史』が大きな支えになるような予感を抱いています。
粟飯原さんから贈っていただいたばかりのこの一書、
まずは私自身が精読しなくてはなりません。