2016年10月22日土曜日

ホッピー文化研究会編 『ホッピー文化論』 ktkr


ホッピー文化研究会編  『ホッピー文化論』ハーベスト社、2016年8月30日発行。

  文化人類学の若き俊英たちが「ホッピー本」を出すというカゼの噂を、わたしはさる消息筋をつうじて数年前からひそかにキャッチしていた……というのは真っ赤な嘘で、この本の発起人にあたる藤野陽平さんが北大に就職される以前、かれと東京で私的な「ホッピー研」をときおり開きつつ、この論集の刊行を心待ちにしていたというのが本当のところです。

  当時ひらいた研究会は、全部で3回ぐらいだったでしょうか。阿佐ヶ谷、蒲田、東高円寺の各名店には、藤野さんに連れて行ってもらった記憶があります。わたしも錦糸町の無国籍歓楽街付近にホッピーのよさそうな店を見つけてはいたのですが、そのうち藤野さんの就職が決まり、自然解散のようなかたちになっていました。そういえば今度はいっしょに行こうと約束していた蒲田のグランドキャバレーにも、まだ行けてはいない。

「本書が訴えたかったのは、ホッピーという東京近辺でよく見かける ようになったが、なんだかよくわからない身の回りにある「異文化」を掘り下げていくことで、現代社会や近過去の歴史がよく見えてくるのではないかということである」 (藤野陽平 「おわりに」より)

「ホッピーが許容される場所の限定性は、最初の一杯に「とりあえず」注文されることの多いビールが獲得している高い汎用性と対照的である[…]ホッピーはよりマイナーで特異である。ナカだの、ソトだの、三冷だのといった呪文のような合言葉はわかる人とわからない人を選別し、秘密結社じみた雰囲気がある。以前に比べれば知名度が上がったとはいえホッピー自体まだまだ知らない人も多い」
                          (本書所収、藤野陽平論文「ホッピーが醸し出すノスタルジア」より)

これらの呪文をフィールドで手ずから教えてくださった笑顔愛くるしい我が恩師の文章、さすがに名文です。

拙宅書斎では、佐藤和歌子の名著『悶々ホルモン』の隣りに、この本を収蔵させていただきます。