社会人類学者の齋藤剛さんが、モロッコ・ベルベル社会をめぐる精密なモノグラフを発表されました。
齋藤剛
『〈移動社会〉のなかのイスラーム - モロッコの
ベルベル系商業民の生活と信仰をめぐる人類学』
昭和堂、2018年2月28日発行。
本書は、著者の齋藤さんが1998年以来、20年にわたって継続されてきた現地調査と研究の集大成です。
先行研究を捉えかえす次元では「民衆イスラーム論」の相対化や、「聖者信仰」という問題設定の脱本質化を試みたうえで、じっさいに人びとが移動を通じて日常的に形成している生活空間と社会関係の広がりのなかで、当の聖者信仰を再検討すること、それが本書の主たる問題意識といえるでしょう。
「聖者信仰の主体的な担い手や、廟という物的シンボルを中心とした場から遠く隔たった治療の現場において、多義的な解釈のうちに一閃の光彩を放つかのように現れ消えてゆく「聖者信仰的な世界」。そのような瞬間的な場面においても聖者信仰が生きられているのだとするならば[…]聖者信仰を特定の場や参詣客と結びつける視点は修正されなくてはならないだろう」 (本書第七章より)