2018年7月14日土曜日

アガンベン 『実在とは何か』

アガンベンの新たな訳書が、刊行されました。

ジョルジョ・アガンベン
 『実在とは何か - マヨラナの失踪』上村忠男訳、
          講談社選書メチエ、2018年7月10日発行。

 一九三八年三月二六日、イタリアの若き理論物理学者が郵便船ティレニア号に乗船したあと、忽然と姿を消した-。
 当時三一歳だったエットレ・マヨラナは、順風満帆に見える時期に、なぜ失踪したのか?  (本書裏表紙リード文より)

 八〇年前の一個体(の消失)をめぐる謎の挿話が、アガンベンの思想とどのように繋がっていくのか。そのことに最初はやや意外な印象をもちましたが、上村忠男氏による巻末の「訳者解説」では、アガンベンの《ホモ・サケル》プロジェクト、とりわけ二〇〇七年の著作『王国と栄光-オイコノミアと統治の神学的系譜学のために』と本書との連続性が指摘されていて、問いの新たな展望が、そのことで一気にひらけるような感覚を抱きました。

「現勢化とはいっさい関係をもたないかたちでみずからを露顕させるような純粋可能態の形態」 が、近代統計学と量子力学を背景として「現実態」に取って代わろうとする時代の界面において、「実在がみずからを実在として主張しうる唯一のやり方」、すなわち本書のタイトルに掲げられた問いそのものを引き出す挿話ないし痕跡としての「失踪」。