2019年7月26日金曜日

『ケベック詩選集』

フランス語圏文学研究の立花英裕さんを共編訳者とするケベック詩、邦訳初のアンソロジーがこのほど刊行されました。

立花英裕・真田桂子 編訳
後藤美和子・佐々木奈緒 訳
『ケベック詩選集-北アメリカのフランス語詩』
          彩流社、2019年6月24日発行。

「ケベックの詩に自然への賛美や恐れはあるが、単純な花鳥諷詠の文学ではない。18世紀中葉からイギリスの植民地支配下に服するようになり、1839年にイギリス政府に提出された有名なダラム報告書で「歴史も文学ももたぬ民族」と侮蔑されたフランス系カナダ人は、たえず未来への漠とした不安にとらわれてきたし、自分たちにどのような意味づけをしたらよいのかという、根源的な問いを発してきた。ケベックの詩に死者への拘り、記憶への執着が目立つのは、そうした植民地状況と密着している」

「ケベック詩には内向的・内省的な性格があるが、愛国主義的な系譜もある。むしろこちらの方が、ケベック詩の原点だと言わなくてはならない。この愛国的な潮流は総じてカトリック色が強いが、同時に、喪失を嘆く詩でもある。ケベックの愛国主義は、挫折を味わった人々の土地への愛着に根ざしている[…]クレマズィやフレシェットの流れを汲む愛国的な詩が脱宗教化し、それがネリガンの創始した叙情詩と融合したとき抵抗の詩が立ち上がり、「静かな革命」期の高揚へと向かっていく[…]「ケベック」を発明したのは詩だと言っても過言ではない」
                        (いずれも立花氏による「訳者あとがき」より)

本書は、ローラン・マイヨとピエール・ヌヴーが編んだケベック詩の代表的なアンソロジー『ケベック詩-その起源から現代まで』(2007年版)を底本としながら、そこには収められていない詩人の作品も新たに加え、総勢36人の詩作を訳出した労作です。今夏、味読をおすすめします。