東京外国語大学出版会より、下記の論集を
来月刊行する予定です。
伊藤剛史・後藤はる美 編
『痛みと感情のイギリス史』
東京外国語大学出版会、2017年3月刊行予定。
[出版企画概要より]
17~20世紀のイギリスをフィールドとして、神経医学の発達、貧者の救済、聖職者の処刑、宗教改革期の病、魔女裁判、夫婦間の虐待訴訟、動物の生体解剖
などを題材に、6名の研究者が史料に残された〈生きられた痛み〉を照らし出し、感情史の射程と、それを取り巻く問題を説き明かす。
[目次]--------------------
無痛症の苦しみ(伊東剛史)
Ⅰ 神経 医学レジームによる痛みの定義(高林陽展)
Ⅱ 救済 19世紀における物乞いの痛み(金澤周作)
Ⅲ 情念 プロテスタント殉教ナラティヴと身体(那須敬)
Ⅳ 試練 宗教改革期における霊的病と痛み(後藤はる美)
Ⅴ 感性 18世紀虐待訴訟における挑発と激昂のはざま(赤松淳子)
Ⅵ 観察 ダーウィンとゾウの涙(伊東剛史)
ラットの共感?(後藤はる美)
痛みと感情の歴史学(伊東剛史/後藤はる美)
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この概要からもうかがえるように、本論集が感情史研究の最前線の仕事として話題にのぼることは、まちがいように思われます。 論集の刊行に先立って、このほど紀伊國屋書店の電子情報サービス KINOLINEも、じつにエッジの効いた情報ページを立ちあげてくださいました。
『痛みと感情のイギリス史』と Eary English Books Online
- 伊藤剛史先生・後藤はる美先生・那須敬先生 座談会
http://www.kinokuniya.co.jp/03f/denhan/chadwyck/umi/eebotalk.htm
編者の伊東剛史さんと後藤はる美さんに出版会編集事務室でいちどお会いしたさいにも、論集の熱気は存分に伝わっていたのですが、今回の情報ページは、EEBOのとてつもなく巨大な存在感もふくめ、知的刺激にみちています。座談会中の発言をふたつだけ、以下引用します。座談会全文を、ぜひ上記ページでご一読ください。満を持して来月刊行の論集本体も、ぜひお手にとってくださるよう、みなさまにお願いします。
伊東先生
「一言でまとめれば、痛みとは何かという問題を、歴史学の視点から考えてみたものです[…]痛みがわたしたちの生に対して根源的な問いを投げかけるという理解は、もしかしたら歴史を通して一様だったわけではないのかもしれません。[…]歴史を辿り、時間を遡っていくと遂には痛みという言葉、つまりpainという文字が(少なくとも私たちの想定するようなかたちでは)資料に登場しない社会が現れます。
たとえば、17世紀半ばにクリストファー・ラヴという牧師が大逆罪により処刑されました。その処刑は、斬首刑で、公開され、多くの人々の注目を集めました。
しかし、処刑の様子がどれほど痛々しいものだったのか、ラヴ本人が経験した苦痛はどれほどのものだったのか、これを直截的に想像させる史料は残されていません。
もちろん、だからといって当時の人々は痛みを感じなかったのかというと、そういうわけではありません。
そうすると、そういった時代の、そのような社会での痛みはどういったものだったのだろうか、私たちの捉えている痛みの感覚とどのように異なっていて、どのように繋がっているのかという問いが出てきます[…]」
那須先生
「我々17世紀のイギリス史をやっている研究者にとってEEBOとは、British Libraryのリーディング・ルームに座るようなことなんです。
リクエストすればなんでも出てくる。それに取り替わったという感じですね[…]だから、何にせよ調査を始めるときには、まずEEBOを引く。二次文献を読んでいて、面白そうな一次史料を使っているなと思ったら、すぐEEBOで確認する。EEBOは図書館なんですよ。まず図書館に行くようにまずEEBO。そういう感じですね。」