愛書家ならば、この一言だけでおもわず陶然としてしまうような、まことに羨ましき存在者の様態。いいですなあ、書痴。
とはいえ、真の書痴を自称するには、ここまでの強度を生きつづけねばならないのだと、おかしみのなかで読者に思う存分、或る奥義の領域を見せつけてくれる一書。山口昌男の追悼論集で仕事をご一緒させていただいた川村伸秀さんが、このほど圧倒的な筆力で、評伝の大著を発表されました。
川村伸秀 『斎藤昌三 書痴の肖像』
晶文社、2017年6月15日初版。

カラー図版に川村さんの解説が添えられた、斎藤の手になる装幀の数々は、どれも息を呑むような、物凄い手の込みようです。そしてこの本の装幀がまた…! 途中でふと思い立って、ちょっと失礼、本書のカバーを剝かせてもらいましたら、カバー裏面にはなんと第二の表紙が。副題も微妙に変化していて、ニヤリとせずにはいられません。それにしても、書痴とエロスは、どうしてこうも交叉するのでしょう。本書でも、「性神探訪」から『濹東綺譚』にいたるまで、エロスの挿話が満載。城市郎の名が何度か言及されているからというだけでなく、当時の「主義者」系の人物群像が入り乱れてくるところも丸ごと含めて、90年代末から2000年代初めにかけて平凡社が『別冊太陽』の豪華な体裁で堂々刊行してくれた「発禁本」全3巻(嗚呼アリガタヤ…)の世界へと、ついつい読み逸れていきそうになりました。川村さん、例によってすばらしく丹念なお仕事の成果を読書界に届けてくださり、ありがとうございました。