2017年6月28日水曜日

川村伸秀 『斎藤昌三 書痴の肖像』

書痴。
愛書家ならば、この一言だけでおもわず陶然としてしまうような、まことに羨ましき存在者の様態。いいですなあ、書痴。
とはいえ、真の書痴を自称するには、ここまでの強度を生きつづけねばならないのだと、おかしみのなかで読者に思う存分、或る奥義の領域を見せつけてくれる一書。山口昌男の追悼論集で仕事をご一緒させていただいた川村伸秀さんが、このほど圧倒的な筆力で、評伝の大著を発表されました。

川村伸秀 『斎藤昌三  書痴の肖像』
      晶文社、2017年6月15日初版。

大正・昭和の書物文化興隆期に、奇抜な造本で書物愛好家たち垂涎の書籍を作り上げたことで知られている書物展望社。その社主であり、自らも編集者・書誌学者・蔵票研究家・民俗学者・俳人・郷土史家と多彩な顔を持っていた斎藤昌三(一八八七-一九六一)の足跡を丹念に調べ直し、その人物像と同時代の作家・学者・趣味人たちとの交友とを鮮やかに描き出した画期的な労作。今では貴重な傑作装幀本の数々をカラー頁を設けて紹介。詳細な年譜・著作目録も付す。(本書表紙そでの概要文)

カラー図版に川村さんの解説が添えられた、斎藤の手になる装幀の数々は、どれも息を呑むような、物凄い手の込みようです。そしてこの本の装幀がまた…! 途中でふと思い立って、ちょっと失礼、本書のカバーを剝かせてもらいましたら、カバー裏面にはなんと第二の表紙が。副題も微妙に変化していて、ニヤリとせずにはいられません。それにしても、書痴とエロスは、どうしてこうも交叉するのでしょう。本書でも、「性神探訪」から『濹東綺譚』にいたるまで、エロスの挿話が満載。城市郎の名が何度か言及されているからというだけでなく、当時の「主義者」系の人物群像が入り乱れてくるところも丸ごと含めて、90年代末から2000年代初めにかけて平凡社が『別冊太陽』の豪華な体裁で堂々刊行してくれた「発禁本」全3巻(嗚呼アリガタヤ…)の世界へと、ついつい読み逸れていきそうになりました。川村さん、例によってすばらしく丹念なお仕事の成果を読書界に届けてくださり、ありがとうございました。